世の中には「大企業VS中小企業」とか、「格差」とか「正規雇用VS非正規雇用」、あるいは「差別」といった比較や議論が多いが、よくよくみると議論の前提が間違っていることや、歪んでいることが多いものだ。
雇用問題などは歪められた代表テーマである。 例えば「非正規雇用が増大している」と大きな声で叫んでいる人がいる。
彼らは生産年齢人口(15歳〜64歳)が平均年齢の高齢化により減少していることを考慮していない。 つまり、リタイアした人間が増加しているだけで、正規雇用の人間のパーセンテージが大きく減少したわけではないのだ。
さらに、大学生のアルバイトが増加したことや、主婦もまた短時間の就労をするケースが増えたことも、非正規雇用増加の原因として挙げられる。 時々の景気動向も「非正規」の増減に影響を与える。
不況期の2000年前後に非正規雇用が増加し、景気拡大期の2003年から2007年に正規従業員が増加したのはそれゆえである。 長期にわたって、構造として、国民の多くが不安定雇用に陥っているわけではないのである。
しかしマスコミではそうは報じられないし、とんでもない職場(会社)のことばかりが紹介される。 たとえば若者の不運・不幸として、新卒の採用内定者をいじめで退職に追い込むようなひどい会社の事例が報じられている。
人材の育成が第一目標である会社こそが成長するそのような会社があるのは事実だろう。 労働経済学者の渾身の書ともいえる『働きすぎに霜れて』などを読むと、胸が痛くなるような「過労職場」の現実が描かれている。
そこには銀行員、教師、工場の技術者や技能者、建設労働者、システムーエンジニア、トラックの運転手、製薬会社の営業マンなどの「過労死」の実際が描かれている。 その多くはトヨタをはじめとした有名企業の社員だが、「年間3000時間を超える労働時間」「月に残業が100時間を超える」といった事例のオンパレードである。
しかもそこに人間性を疑うようなハラスメントが加わることもある。 世の中にはなんとまあ非人間的な職場があることか、とため息が出るのである。

熊沢氏の描く職場世界は実名で描かれており事実そのものなのだが、市場競争はつねに「行き過ぎ」をもたらす。 それは経営者だけの問題ではなく、昇進志向や、「あいつにだけは負けたくない」というライバル意識など、働く者自身の意識の問題でもあるのだ。
そして「行き過ぎ」は決してなくならないだろう。 なぜならそうした「経営」や「管理」を生み出す原因は多様だからである。
しかし世の中の多くの企業と人々は、普通の経営のなかで普通に働いており、「市場原理主義」の「犠牲」のもとにあるわけではない。 景気動向その他の理由でボーナスが減ったり、残業がなくなったりして収入が減少していることは事実なのだが、それほど皆が「生命の危機」にさらされているわけではなく、また「非正規社員への転落を恐れて」限界を超えた頑張りの日々を送っているわけでもない。
社員としての身分はそれほど不安定なものではないのだ。 どの会社も社員の仕事能力の成長を望んでいるし、多くの会社が社員の喜びや生き生きとして働く姿をよいことと思っている。

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